執筆・監修:白澤一弘(日本医師会認定産業医)
最終確認日:2026年10月26日
結論
- 見るのは病名ではなく、仕事ぶりの変化です。病気かどうかの判断は、上司にはできませんし、する必要もありません
- 命の危険が差し迫っているときは、すぐに119番。本人を一人にしません
- それ以外は、1対1で話を聴く → 人事・産業医に相談する → 受診や産業医面談をすすめる、の順です
- 休ませるかどうかを決めるのは会社です。ただし上司が一人で決めず、主治医と産業医の意見を材料にします
- 上司に伝えるのは「何を調整するか」まで。病名は広げません。上司も一人にせず、人事と産業医が後ろにつきます
まず「病名」ではなく「仕事ぶりの変化」で見る
職場で扱うのは、病名(疾病性)ではなく、仕事の上で困っている具体的な事実(事例性)です。症状や病名は医師が判断します。職場では事例性を先に見ます(こころの耳「事例性と疾病性」)。
厚生労働省のパンフレットは、管理監督者が気づきやすい「いつもと違う」部下の様子を10項目挙げています(「職場における心の健康づくり」)。
| まとまり | 「いつもと違う」様子 |
|---|---|
| 勤怠 | 遅刻・早退・欠勤が増える / 休みの連絡がない(無断欠勤がある) / 残業・休日出勤が不釣合いに増える |
| 仕事の結果 | 仕事の能率が悪くなる。思考力・判断力が低下する / 業務の結果がなかなか出てこない / ミスや事故が目立つ |
| 人との関わり | 報告や相談、職場での会話がなくなる(またはその逆) |
| 様子 | 表情に活気がなく、動作にも元気がない(またはその逆) / 不自然な言動が目立つ / 服装が乱れたり、衣服が不潔であったりする |
比べる相手は、ほかの社員ではありません。普段のその人です。
「またはその逆」もあります。急に口数が増えた、急に元気すぎる、も変化の一つです。どれか1つが当てはまれば不調、という表ではありません。声をかけるきっかけとして使います。
なごみ産業医事務所の考え:
- 「最近うつっぽい」とは言いません。「先月から遅刻が3回、締切の遅れが2回」と言います
- 事実で話すと、本人も責められたと感じにくい。人事や産業医に相談するときも、そのまま伝わります
急ぐ場面と、数日のうちに動けばよい場面
全部を同じ速さで扱う必要はありません。先に、急ぐかどうかを分けます。下の表の区分と動き方は、法令で決まったものではなく、なごみ産業医事務所の目安です。
| 急ぎ方 | 場面の例 | 動き方 |
|---|---|---|
| すぐに | 今まさに命の危険が差し迫っている | 119番に連絡する。本人を一人にしない。あわせて人事に連絡 |
| その日のうちに | 「死にたい」「消えたい」など命に関わる言動がある / 無断欠勤が続き、連絡が取れない / 運転・高所・機械など、事故につながる作業で明らかに集中できていない / 本人が強く助けを求めている | 命に関わる言動があるときは、本人を一人にしないまま、その日のうちに人事・産業医に相談する(上司一人で抱えない)。家族や医療機関への連絡が要るときは、人事が受け持つ(考え方は「よくある質問」)。事故につながる作業は、責任者と相談してその日は外れてもらう(本人には「安全のため、今日はこの作業を外れてほしい」と伝える) |
| 数日〜1週間のうちに | 遅刻・ミスが増えた、表情が暗い、口数が減った。仕事はなんとか回っている | 1対1で話を聴く時間をつくる。事実を記録する。人事に一報。様子が悪くなったら、待たずに上の段で動く |
命に関わる言動があるときは、「決してひとりにしないで、医療機関につなげる」が原則です(こころの耳 専門家向けトピックス No.3)。公的な相談窓口は、厚生労働省「まもろうよ こころ」に一覧があります(記事の最後にも載せています)。
会社には、社員が安全に働けるよう必要な配慮をする義務があります(労働契約法 第5条)。気づいた変化を人事や産業医に伝え、記録しておくことが、その第一歩です。
声をかける
場所とタイミング
- 人目のない場所で、1対1で話します
- 会議の冒頭やチームの前は避けます
- 業務の指摘より先に、様子が気になっていることを伝えます
最初の一言の例
上司「先月から朝の遅れが何回かあって、少し気になってた。体調はどう?」
部下「大丈夫です。すみません」
上司「謝らなくていいよ。今日は仕事の評価の話をしたいわけじゃない。仕事の量とか、困ってることがあれば聞かせてほしい」
ポイントは3つです。
- 見た事実から入る(「遅れが何回か」)
- 心配していることを伝える(「気になってた」)
- 今日の話の目的を伝える(「評価の話をしたいわけじゃない」)
話し始めたら、途中で助言をはさまず、最後まで聴きます。厚生労働省のパンフレットも、上司の対応は話を聴くこと(積極的傾聴)から始まり、相談先の情報を伝え、相談・受診を促す流れにしています。
言わないほうがよいこと
| 言葉 | なぜ |
|---|---|
| 「頑張れ」「気合いで乗り切ろう」 | むやみな励ましは禁物です(こころの耳) |
| 「だらしない」「やる気がない」 | 非難も禁物です(こころの耳)。原因が体調にあるかもしれません |
| 「うつじゃない?」「病院で診てもらえば分かる」 | 病名の推測はしません。判断するのは医師です |
| 「いっそ辞めたら」「部署を変えてもらおう」 | 退職や異動のような重要な決断は、先送りにします(こころの耳) |
体調や、仕事で困っていること、会社にできることを聞くのはかまいません。病名や通院先を、上司から聞き出すのは避けます。
在宅勤務の部下には、勤怠やチャットでの変化の見方が少し違います。「テレワークのメンタルヘルス対策」にまとめています。
受診・産業医面談につなぐ
すすめ方
受診をすすめるときも、事実と心配から入ります。
上司「眠れない日が続いているなら、一度、専門の人に相談してみない? 会社には産業医もいるから、まずそこで話してみるのもありだと思う」
- 産業医がいる会社なら、産業医面談をすすめるのも一つの方法です。産業医は診断や治療はしませんが、職場の事情を知ったうえで、医療機関への受診をすすめるかどうかを本人と話せます
- 上司が見た事実は、人事・産業医に相談してかまいません。本人にも「人事と産業医に相談しておく」と伝えておきます。病名の推測は伝えません
本人が嫌がったとき
なごみ産業医事務所の考えでは、急ぐ場面でなければ、無理に連れて行きません。まず、嫌がる理由を聞くところから始めます。
| よくある理由 | 返し方の例 |
|---|---|
| 評価が下がるのが怖い | 「今日は評価の話じゃない。体調と仕事の量を確かめたいだけ」 |
| 病名がつくのが怖い | 「病気と決まったわけじゃない。今の状態を一緒に整理してもらうだけ」 |
| 会社に知られたくない | 「産業医は、病名などをそのまま会社に伝えず、必要な情報に絞って伝えることになっている」(厚生労働省のメンタルヘルス指針)。それでも嫌なら、社外の窓口(こころの耳)を伝える |
| 時間がない・忙しい | 「業務時間内でいい。その時間の仕事はこちらで調整する」 |
- その場で決めさせず、時間をおいてもう一度声をかけます。間のあけ方の目安は1週間ほど。様子が悪くなっていれば、待ちません
- 声をかけた日、伝えたこと、本人の返事を記録に残します
- 受診や面談を会社が命じられるかは、就業規則と個別の事情による法律の判断です。社労士・弁護士に確認してください。面談を断られたときの流れは「産業医面談を拒否されたら」にあります
産業医がいない会社
常時50人未満の事業場には、産業医の選任義務がありません(労働安全衛生法施行令 第5条)。それでも、社員の様子が気になったときに相談できる医師がいれば、上司と人事だけで抱えずにすみます。頼む先は、大きく分けて次の3つです。
- 地域産業保健センター(労働者健康安全機構): 50人未満の事業場向けに、原則無料で相談を受けます。利用には事前の申し込みが要ります。使えるサービスや回数は、センターによって違います
- スポットの医師: 面談を1件ごとに頼めます
- 顧問医: 契約した医師に、続けて相談できます
なごみ産業医事務所には、従業員50人未満で産業医の選任義務がない会社向けの顧問医プラン(オンラインで全国対応)があります。社員の様子が気になる段階から、従業員の健康について同じ医師に続けてご相談いただけます。メール・チャットでのご相談もお受けします。料金の目安は「料金・プラン(顧問医プラン)」をご覧ください。対応の範囲と費用は、無料相談でお話をうかがい、お見積りでご案内します。3つの比べ方は「50人未満の会社に産業医は必要?」にまとめています。
なお、50人以上かどうかは、会社全体ではなく事業場(本社・支店・工場など)ごとに数えます。常時50人以上の事業場には産業医の選任が必要で、顧問医プランはその代わりにはなりません。はじめて産業医を選ぶ場合は「産業医スタートプラン」をご覧ください。
休ませるかを誰が決めるか
休職は、就業規則にもとづいて会社が決めるものです。業務の調整も会社が決めます。ただし、上司が一人で決めず、次の意見を材料にします。
| 誰が | 見るもの |
|---|---|
| 主治医 | 病状・治療・休養の必要性(診断書) |
| 産業医 | 職場で何ができるか、何を避けるか(残業・出張・担当業務など) |
| 会社 | 二人の医師の意見をふまえて、就業規則に沿って休職・配置・業務の量を決める |
医師の意見が出るのを待つ間も、会社は安全のための調整をすぐにできます。
- 残業を止める。締切を延ばす
- 一人での客先対応や、事故につながる作業から外す
- 長時間労働の人には、医師の面接指導の仕組みがあります。時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積がある人が申し出たら、会社は面接指導を行います。会社は80時間を超えた本人に労働時間の情報を知らせ、産業医は申出をすすめることができます(労働安全衛生規則 第52条の2・第52条の3)。詳しくは「長時間労働の医師面接」
なごみ産業医事務所の考え:
- 医師の意見がそろうと、会社は「この判断でよいのか」と迷わずに進められます
- 産業医の意見が主治医の診断書と同じでも、意味はあります。会社は、医師2人の意見をそろえたうえで判断できます
休職が決まったときに人事が使う文例と記入用の表は、資料「休職・復職 対応書式セット」にまとめています。休職に入ってからの流れは「休職・復職支援」「休職中の従業員への連絡」をご覧ください。
伝える範囲と記録
心身の状態に関する情報は、そのほとんどが要配慮個人情報です。取り扱う人を決めて絞り、必要に応じて中身を加工して伝えます(厚生労働省「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」)。
- 上司が対応のために知っておきたいのは、多くの場合、病名より何を避けるか、何を調整するか、いつ見直すかです
- 同僚に伝える必要があるときは、伝える内容と範囲を人事と決め、できるだけ本人にも確かめてから伝えます
社内での共有の線引きは「健康情報の共有」にまとめています。
記録に書くこと・書かないこと
| 書く | 書かない |
|---|---|
| 日付と、見た事実(「10/6〜10/24に遅刻3回」) | 「うつだと思う」などの推測 |
| 本人の言葉(「最近眠れていない」) | 「仕事を任せられない人だ」などの評価 |
| 案内したこと(産業医面談・社外の窓口) | 本人が話した私生活の詳しい事情 |
| 本人の返事と、次に声をかける日 |
記録は、見られる人を絞った場所に置きます(人事が管理する)。チームの共有フォルダには置きません。
上司を一人にしない
不調の部下を抱えた上司は、自分も疲れます。上司が抱え込むほど、対応は遅れます。
流れは「上司 → 人事(または社内の相談窓口) → 産業医」です。人事が前もって決めておくことは4つです。
- 上司が最初に相談する相手(人事の誰か)
- 連絡の期限(急ぐ場面はすぐ・その日、それ以外は1週間以内が目安)
- 記録の置き場所と、見られる人
- 本人に渡す社外の窓口の案内(下の表)
原因がハラスメントだと本人が言うときは、本人に社内の相談窓口を案内し、人事にも引き継ぎます。パワーハラスメントの相談に応じ、適切に対応する体制を整えることは、事業主の義務です(労働施策総合推進法 第31条。2026年9月30日までは第30条の2)。上司自身が当事者と言われたときは、上司が対応を続けず、人事に引き継ぎます。
よくある質問
本人が「大丈夫です」としか言いません
事実が続いているなら、時間をおいて同じ事実でもう一度声をかけます。それでも変わらなければ、上司から人事・産業医に「こういう様子が続いている」と相談します。急ぐ場面のサインが出たら、待たずに動きます。
家族に連絡してよいですか?
普段は、本人と相談してからにします。命に関わる言動がある、無断欠勤が続いて安否が分からないなど、本人の安全を確かめられないときは、本人の了解を待たずに、人事が家族や医療機関に連絡します。今まさに命の危険が差し迫っているときは、119番です。
「上司のせいで不調になった」と言われました
自分で解決しようとせず、人事か社内の相談窓口に引き継ぎます。反論も謝罪の約束も、その場ではしません。言われた日と内容を記録します。
産業医には何を伝えればよいですか?
見た事実(勤怠・仕事の結果・本人の言葉)と、上司として困っていること、会社が今できる調整です。病名の推測は要りません。
社外の相談窓口(2026年10月26日時点)
本人・家族・人事労務担当者が使えます。受付時間は変わることがあるので、使う前に各ページで確かめてください。
| 窓口 | 受付 |
|---|---|
| 働く人の「こころの耳電話相談」 0120-565-455 | 平日17:00〜22:00(受付21:50まで)、土日10:00〜16:00(受付15:50まで)。祝日・振替休日・年末年始(12/29〜1/3)は休み |
| 働く人の「こころの耳SNS相談」(LINE) | 平日17:00〜22:00(受付21:30まで)、土日10:00〜16:00(受付15:30まで)。祝日・振替休日・年末年始(12/29〜1/3)は休み |
| 働く人の「こころの耳メール相談」 | 24時間受付。原則1週間以内に返信 |
| #いのちSOS 0120-061-338 | 毎日24時間 |
| よりそいホットライン 0120-279-338 | 24時間 |
| 厚生労働省「まもろうよ こころ」 | 電話・SNSなど、悩みの相談窓口の一覧 |
参考資料(確認日:2026年10月26日)
- 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」 https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001671565.pdf
- 厚生労働省「職場における心の健康づくり」 https://www.mhlw.go.jp/content/001579077.pdf
- 厚生労働省「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」 https://www.mhlw.go.jp/content/000922318.pdf
- こころの耳「事例性と疾病性」 https://kokoro.mhlw.go.jp/glossaries/word-1592/
- こころの耳「部下・同僚への配慮」 https://kokoro.mhlw.go.jp/attentive/atv004/
- こころの耳「上司・同僚の方へ」 https://kokoro.mhlw.go.jp/about-depression/ad006/
- こころの耳 電話相談 https://kokoro.mhlw.go.jp/tel-soudan/ / SNS相談 https://kokoro.mhlw.go.jp/sns-soudan/ / メール相談 https://kokoro.mhlw.go.jp/mail-soudan/
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」 https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/
- 労働者健康安全機構「地域産業保健センター」 https://www.johas.go.jp/sangyouhoken/tabid/333/Default.aspx
- 労働契約法 第5条 https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128
- 労働施策総合推進法 https://laws.e-gov.go.jp/law/341AC0000000132
- 労働安全衛生法施行令 第5条 https://laws.e-gov.go.jp/law/347CO0000000318
- 労働安全衛生規則 第52条の2・第52条の3 https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032
不調に気づいた段階から、産業医に相談できます
なごみ産業医事務所は、休職に入る前の「様子が気になる」段階の相談から受けています。
- 従業員50人未満で産業医の選任義務がない会社には、同じ医師に続けて相談できる「顧問医プラン」をご用意しています
- 顧問契約のない会社も、長時間労働・高ストレス・復職の面談を「1件から頼める面談(スポット)」でご利用いただけます
- どちらが合うか分からないときは、「お問い合わせ(はじめての無料相談)」からご相談ください
- 産業保健の実務書式・資料ダウンロード
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の判断は専門家にご確認ください。診断・治療は主治医にご相談ください。


