執筆・監修:白澤一弘(日本医師会認定産業医)
最終確認日:2026年8月1日
結論
上司へ共有するのは、原則として病名や検査値ではなく、安全に働くために必要な就業上の措置です。「誰が、何の目的で、どの情報を、誰へ伝えるか」を先に決め、本人へ説明し、社内規程に沿ってアクセスできる人を限定します。同じ会社内の共有が個人情報保護法上の第三者提供に当たらない場合でも、健康情報を自由に広めてよいわけではありません。
労働者の心身の状態に関する情報の多くは要配慮個人情報であり、事業者は健康確保に必要な範囲と利用目的の範囲内で収集・保管・使用し、適正管理に必要な措置を講じる必要があります。 出典:厚生労働省「健康診断やストレスチェックの情報管理は大丈夫?」
上司へ伝える情報、原則として伝えない情報
| 原則として詳細を共有しない情報 | 必要に応じて上司へ共有する情報 |
|---|---|
| 具体的な病名、診断名 | 残業、夜勤、出張を避ける必要 |
| 検査値、健診結果の詳細 | 重量物、高所、運転等の制限 |
| 薬剤名、治療内容の詳細 | 通院のための勤務時間調整 |
| 面談で話した私生活上の事情 | 配慮の開始日、期間、見直し日 |
| ストレスチェックの個人結果 | 緊急時の対応と連絡経路 |
| 主治医・産業医との会話の全文 | 上司が行う具体的な業務調整 |
上司が必要としているのは、診断名ではなく、「何を避けるか」「何を調整するか」「いつ見直すか」です。
「社内共有だから自由」ではない理由
同じ事業者内の別部門への提供は、一般に個人情報保護法上の第三者提供には当たりません。ただし、当初特定した利用目的の範囲を超えて使用してよいという意味ではありません。健康情報は機微性が高いため、利用目的、取扱者、情報の範囲、保管方法を定めます。
詳細な医学情報は、必要に応じて産業医や保健師などの産業保健業務従事者が、医学的判断を加えて就業上の措置へ加工することが望ましいとされています。 出典:個人情報保護委員会「雇用管理分野における健康情報の取扱い」
情報の種類ごとに扱いを分ける
| 情報 | 実務上の確認点 |
|---|---|
| 法定健康診断の結果 | 法令上の取得・保存・医師意見聴取の目的に沿って扱う |
| ストレスチェックの個人結果 | 本人の同意なく実施者から事業者へ提供しない |
| 高ストレス者の面接指導結果 | 健康確保と就業上の措置に必要な範囲で扱う |
| 休職・復職の診断書 | 復職判断と配慮に必要な範囲へ限定する |
| 本人が任意に相談した内容 | 取得時の説明、同意、相談目的との関係を確認する |
| 上司が見聞きした体調情報 | 推測を広めず、必要に応じ人事・産業保健窓口へ限定して相談する |
情報の取得根拠や制度によって同意の要否が変わるため、「健康情報はすべて同意が必要」「社内なら同意不要」のどちらも一律には当てはまりません。
実務で迷いやすい4つの場面
場面1.メンタルヘルス不調で休職する
上司には、休職期間、業務引継ぎ、連絡窓口、本人への連絡方法を伝えれば、通常の管理目的を果たせます。診断名や発症の背景を、本人の説明なく職場へ広く共有する必要はありません。
共有例:
○○さんは療養のため○月○日から休職します。休職中の連絡窓口は人事に一本化し、業務連絡は人事を通してください。病名や治療内容は共有しません。
復職段階では、病名そのものよりも、主治医の診断書にある勤務能力や配慮条件を確認します。判断の手順は復職診断書で会社が確認する内容をご覧ください。
場面2.健康診断後に就業制限が必要になった
上司には、産業医等が整理した就業上の措置を伝えます。
共有例:
健康確保のため、○月○日まで時間外労働と深夜勤務を避けてください。○月○日に産業医の意見を確認し、継続または終了を判断します。
場面3.ストレスチェックで高ストレスと判定された
個人結果は、本人の同意なく事業者へ提供できません。面接指導の申出があった場合も、上司へ伝えるのは、労働時間、業務量、配置など就業上必要な事項に整理します。
場面4.上司が部下の体調悪化に気づいた
上司は診断をせず、観察した事実と業務上の影響を人事・産業保健窓口へ伝えます。
記録例:
7月15日から遅刻が3回あり、7月20日の会議で本人から「眠れていない」と申出があった。担当案件の期限を一時調整し、人事相談窓口を案内した。
「うつ病だと思う」「仕事を任せられない人だ」といった推測や評価を健康情報の記録に混ぜないでください。
本人への説明に含める項目
- 取得する情報
- 利用目的
- 取り扱う担当者
- 上司等へ共有する内容
- 共有する理由
- 保存場所と保存期間
- 本人が質問・訂正を申し出る窓口
- 配慮内容の見直し日
説明文例:
産業医から会社へは、病名や面談内容の全文ではなく、勤務時間、業務量、配置など就業上の配慮に必要な事項が伝えられます。直属上司には、実際に行う配慮とその期間だけを共有します。共有前に、内容と目的をあなたへ説明します。
社内で整える6つのルール
- 健康確保、適正配置、休復職支援など利用目的を明文化する。
- 法令に基づき取得する情報、本人同意で取得する情報、加工して共有する情報を分類する。
- 産業医、保健師、人事、管理監督者の取扱権限を分ける。
- 詳細な医学情報を、就業上必要な措置へ加工する手順を決める。
- 人事評価資料と健康情報の保存場所・アクセス権を分ける。
- 保存期間、廃棄、漏えい時の報告、退職時の取扱いを決める。
厚生労働省の指針は、事業者が健康情報の取扱規程を策定し、衛生委員会等を活用して労使で共有することを示しています。 出典:厚生労働省「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱い指針」
共有前チェックリスト
- □ 共有する目的を一文で説明できる
- □ 病名を伝えなくても目的を達成できないか検討した
- □ 共有先を役割上必要な人に限定した
- □ 本人へ「誰に・何を・なぜ」伝えるか説明した
- □ 配慮内容、期間、見直し日を決めた
- □ 通常の人事評価資料と保存場所を分けた
- □ メール送信先、添付、アクセス権を確認した
- □ 個別判断が必要な場合に産業医・専門家へ確認した
よくある質問
本人が同意しなければ、上司へ何も伝えられませんか?
一律ではありません。取得した制度、法令上の根拠、利用目的、緊急性によって扱いが変わります。詳細な病名を共有する前に、就業上の措置だけで目的を達成できないか確認してください。
上司から病名を聞かれたらどう答えますか?
「病名や治療内容は共有せず、業務上必要な配慮をお伝えします」と説明します。上司が行う業務調整に必要な情報へ絞ります。
オンライン面談の記録を通常メールで共有してよいですか?
健康情報の機微性を踏まえ、送信先、暗号化、アクセス権、保存先、誤送信時の対応を社内規程で定めます。会話記録をそのまま広く送る運用は避けます。
参考資料
健康情報の取扱ルールを整えます
なごみ産業医事務所では、健康情報取扱規程、面談後の意見書、上司への共有範囲、休職・復職時の情報管理を企業の体制に合わせて支援します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の取扱いは、最新の法令・指針、社内規程、取得経路を確認してください。


