常時使用する労働者が50人以上になった事業場では、産業医と衛生管理者を選任し、所轄の労働基準監督署へ報告する必要があります。社内で担当者を決めるだけでは手続きは完了しません。
選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任し、その後遅滞なく選任報告を行います。また、2025年1月1日から選任報告は電子申請が原則となっています。
この記事では、産業医・衛生管理者の選任対象、必要書類、e-Govによる電子申請、様式第3号の考え方、届出後に行うことまで、企業の人事・総務担当者向けに順番に解説します。2026年8月1日から始まった産業医の辞任・解任・退任時の報告義務についても取り上げます。
この記事の要点
- 産業医と衛生管理者は、業種を問わず常時50人以上の労働者を使用する事業場で選任が必要
- 会社全体ではなく、原則として支店・店舗・工場など「事業場」単位で判断する
- 選任すべき事由が発生してから14日以内に選任し、遅滞なく所轄労働基準監督署へ報告する
- 正式な手続名は「産業医の選任報告」「衛生管理者の選任報告」で、一般に選任届とも呼ばれる
- 2025年1月1日から電子申請が原則。入力支援サービスとe-Gov電子申請は別のサービス
- 2026年8月1日以降、産業医の辞任・解任・退任があった場合も遅滞ない報告が必要
まず確認:50人の判定は会社全体ではなく事業場単位
労働安全衛生法では、企業全体ではなく、原則として場所的・組織的に一つのまとまりを持つ事業場を単位に安全衛生管理体制を整えます。本社、支店、営業所、店舗、工場などが、それぞれ独立した事業場として扱われることがあります。
例えば会社全体では120人でも、本社40人、支店30人、店舗25人、店舗25人という構成で、各拠点が別の事業場と判断される場合、それぞれについて直ちに50人以上の選任義務が生じるとは限りません。反対に、一つの事業場が50人に到達すれば、会社全体の規模が小さくても対象です。
「常時使用する労働者」には、正社員だけでなく、継続して使用するパート・アルバイト等が含まれることがあります。派遣労働者の数え方や、同じ建物内に複数組織がある場合の事業場区分は個別判断が必要になるため、迷うときは所轄労働基準監督署へ事前に確認しましょう。
産業医と衛生管理者は何が違う?
| 項目 | 産業医 | 衛生管理者 |
|---|---|---|
| 選任対象 | 常時50人以上のすべての事業場 | 常時50人以上のすべての事業場 |
| 主な役割 | 医学的立場から健康管理、面接指導、職場巡視、事業者への助言等を行う | 事業場内で衛生に関する技術的事項を管理し、日常的な安全衛生活動を進める |
| 資格 | 医師で、産業医として法令上の要件を満たす者 | 業種に応じた衛生管理者免許等を有する者 |
| 所属 | 規模により嘱託または専属 | 原則としてその事業場に専属の者 |
| 選任報告 | 所轄労働基準監督署へ報告 | 所轄労働基準監督署へ報告 |
両者はどちらか一方を置けばよいものではありません。産業医が医学的な専門判断を担い、衛生管理者が社内の日常運用を担うことで、健康診断後の措置、長時間労働者対応、職場巡視、衛生委員会などを継続的に進められます。
産業医の選任要件と人数
| 常時使用する労働者数 | 必要な産業医 |
|---|---|
| 1~49人 | 法定の選任義務なし。ただし医師等による健康管理を行う努力義務あり |
| 50~999人 | 1人以上。嘱託産業医でも可 |
| 1,000~3,000人 | 1人以上の専属産業医 |
| 3,001人以上 | 2人以上の専属産業医 |
ただし、一定の有害業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場では、1,000人未満でも専属産業医が必要です。
産業医は医師であれば誰でもよいわけではありません。厚生労働大臣が定める研修を修了した者、指定された産業医養成課程を修了した者、保健衛生区分の労働衛生コンサルタントなど、労働者の健康管理を行うための要件を満たす医師から選任します。
産業医選任の基本から確認したい場合は、産業医の選任義務と選び方を解説した記事もご覧ください。
衛生管理者の選任要件と人数
衛生管理者も、常時50人以上の労働者を使用するすべての事業場で選任します。必要人数は事業場規模によって異なります。
| 常時使用する労働者数 | 衛生管理者の人数 |
|---|---|
| 50~200人 | 1人以上 |
| 201~500人 | 2人以上 |
| 501~1,000人 | 3人以上 |
| 1,001~2,000人 | 4人以上 |
| 2,001~3,000人 | 5人以上 |
| 3,001人以上 | 6人以上 |
農林畜水産業、鉱業、建設業、製造業、電気・ガス・水道業、運送業、医療業、清掃業などでは、第一種衛生管理者免許等が必要です。事務所中心の業種など、法令上「その他の業種」に該当する場合は、第二種衛生管理者免許でも選任できることがあります。
また、一定規模以上の事業場や、有害業務に従事する労働者が一定数いる事業場では、衛生管理者のうち少なくとも1人を専任とするなどの追加要件があります。業種・規模・有害業務の有無を確認してから候補者を決めてください。
選任期限と報告期限
厚生労働省のQ&Aでは、産業医・衛生管理者等について、選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任し、遅滞なく報告することが示されています。
- 新たに事業場の労働者数が50人へ到達した
- 前任者が退職・異動し、後任の選任が必要になった
- 事業場の新設により選任義務が生じた
- 事業場統合等により常時使用労働者数が基準を超えた
採用や異動が確定してから候補者探しを始めると、14日以内の選任に間に合わないことがあります。45人前後になった段階で、産業医候補の選定、衛生管理者資格者の確認、衛生委員会の準備を始めるのが安全です。
必要書類
産業医の選任報告
- 産業医選任報告の入力情報
- 医師免許証の写し
- 産業医としての資格を証する書面の写し
産業医資格の証明書類には、日本医師会認定産業医の認定証など、選任する医師が要件を満たすことを確認できるものを使用します。添付する書類の種類は、その医師がどの資格要件に該当するかによって異なります。
衛生管理者の選任報告
- 衛生管理者選任報告の入力情報
- 衛生管理者免許証の写し、または資格を証する書面
電子申請では、添付書類をPDFや画像ファイル等として準備します。氏名、免許番号、医籍番号などが判読できるか、ファイルの向きや解像度を提出前に確認してください。
届出を進める実務フロー
ステップ1:事業場単位の労働者数を確認する
まず、会社全体ではなく事業場ごとに常時使用する労働者数を整理します。直近の在籍者数だけでなく、採用予定、異動予定、派遣労働者、パート・アルバイト等の取扱いも確認します。
ステップ2:業種と必要人数を確定する
産業医が嘱託でよいか専属が必要か、衛生管理者は第一種・第二種のどちらが必要か、必要人数はいくつかを整理します。製造、建設、運送、医療などは資格区分や安全管理者の要否にも注意が必要です。
ステップ3:候補者の資格と就任可能日を確認する
産業医については契約内容、就任日、訪問頻度、職場巡視、衛生委員会への参加、面談対応、健診事後措置の方法まで確認します。衛生管理者については免許区分、事業場への専属状況、実際に衛生管理業務を行える時間と権限を確認します。
ステップ4:社内で正式に選任する
契約締結や社内決裁を終え、選任日を明確にします。辞令、選任通知、契約書、資格確認書類などは社内記録として整理し、報告内容と日付が食い違わないようにします。
ステップ5:e-Govで電子申請する
2025年1月1日から、産業医・衛生管理者の選任報告は電子申請が原則です。電子申請はパソコンからe-Govを利用して行います。
- e-Govアカウントまたは利用可能な認証方法を準備する
- e-Gov電子申請の利用環境を設定する
- 手続検索で「産業医の選任報告」または「衛生管理者の選任報告」を検索する
- 事業場名、所在地、業種、労働者数、選任者の情報等を入力する
- 免許証や資格証明書の写しを添付する
- 提出先が事業場所在地を管轄する労働基準監督署になっているか確認する
- 申請内容を確認して送信する
- 到達番号、申請データ、審査終了後の電子公文書を保存する
注意:厚生労働省の「労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス」は、入力エラーの確認や帳票作成に便利ですが、サービス上で入力しただけでは電子申請が完了しない場合があります。オンライン提出はe-Govの申請画面で完了したことを確認してください。
電子申請の環境が整っていない場合は、当分の間、書面による報告も可能とされています。ただし電子申請が原則であるため、紙で提出するときは所轄労働基準監督署に最新の取扱いと必要部数を確認してください。
ステップ6:控えと資格書類を保存する
送信後は、申請データ、到達通知、電子公文書、添付書類、社内の選任記録を一つのフォルダに保存します。担当者の異動後も確認できるよう、保存場所と更新責任者を決めておきましょう。電子公文書には取得期限が設定されることがあるため、審査通知を受けたら早めにダウンロードします。
様式第3号を作成するときの確認ポイント
- 本社住所ではなく、対象となる事業場の名称・所在地を入力しているか
- 事業場の業種区分が実態と合っているか
- 常時使用する労働者数が最新か
- 選任日と就任日、前任者の辞任等の日付に矛盾がないか
- 産業医の医籍番号、衛生管理者の免許番号を資格書類と照合したか
- 必要な資格区分を満たしているか
- 添付書類の文字が鮮明に読めるか
- 所轄労働基準監督署を事業場所在地で選んでいるか
様式や電子申請画面は改正されることがあります。過去に保存したPDFや社内マニュアルをそのまま使わず、提出時点の厚生労働省・e-Govの画面を確認してください。
2026年8月1日から産業医の辞任等も報告が必要
2026年8月1日施行の改正により、産業医の選任義務がある事業場で、産業医が辞任・解任・退任した場合、事業者は産業医の氏名、辞任等の年月日などを所轄労働基準監督署長へ遅滞なく報告することが義務付けられました。
ただし、新しい産業医の選任報告を行う際に、前任産業医の辞任等について必要な報告を含めて行った場合は、同じ内容を重ねて報告する必要はありません。
労働者数が50人未満になり、法令上の産業医選任義務がなくなったことに伴う辞任等は義務報告の対象外とされていますが、監督署が選任状況を把握できるよう報告することが望ましいとされています。変更時は後任選任の14日ルールと合わせ、空白期間が生じないよう早めに動きましょう。
よくある不備と防止策
会社全体の人数だけで判断している
選任義務は事業場単位です。複数店舗や支店がある会社では、各拠点の独立性と労働者数を整理してください。
50人になってから候補者を探し始める
14日以内に資格を満たす産業医・衛生管理者を選任する必要があります。採用計画上50人到達が見えた時点で準備します。
入力支援サービスで作成して手続きが終わったと思う
帳票を作成しただけでは提出が完了していないことがあります。e-Govで送信し、到達通知を確認してください。
資格証の期限や区分を確認していない
産業医資格の証明方法、衛生管理者免許の種類、業種との適合を確認します。氏名変更などで資格書類と入力内容が異なる場合も事前に整理します。
選任報告後に実務が始まっていない
報告は体制整備のスタートです。産業医・衛生管理者の氏名や業務内容を労働者へ周知し、衛生委員会、職場巡視、健診事後措置等の年間計画を作成します。
届出後に行うこと
- 産業医・衛生管理者の氏名と担当業務を労働者へ周知する
- 毎月1回以上を基本として衛生委員会を開催する
- 衛生委員会の議事録を作成し、法定期間保存する
- 産業医の職場巡視と改善フォローの予定を決める
- 健康診断結果を産業医へ共有し、就業上の措置について意見を聴く
- 長時間労働者、高ストレス者、休復職者への面談フローを決める
- 事業者から産業医へ提供すべき情報の社内ルールを整える
- 担当者変更や資格更新時の確認日を管理台帳へ登録する
よくある質問
労働者がちょうど50人でも選任が必要ですか?
はい。「50人以上」が対象なので、常時使用する労働者が50人に到達した事業場は産業医と衛生管理者の選任対象です。
会社全体では50人以上ですが、各店舗は50人未満です
原則は事業場単位で判断します。ただし、各店舗の独立性や労務管理の状況によって事業場の判断が変わることがあるため、組織図や勤務実態を整理して所轄労働基準監督署へ確認してください。
産業医と契約した日が選任日ですか?
契約締結日と実際の選任日が同じとは限りません。契約書、社内決裁、選任通知、勤務開始日を整理し、会社として正式に産業医へ選任した日を明確にします。不明な場合は監督署へ確認してください。
報告が14日を過ぎてしまった場合はどうすればよいですか?
未報告のままにせず、資格を満たす者を速やかに選任・報告し、必要に応じて所轄労働基準監督署へ事情を説明して対応を確認してください。
紙での提出はできませんか?
電子申請が原則ですが、電子申請を行う環境が整っていない場合などは、当分の間、書面による報告も可能とされています。提出方法、様式、部数は所轄監督署へ確認してください。
提出前チェックリスト
- 事業場単位で常時使用する労働者数を確認した
- 50人到達日など、選任すべき事由の発生日を確認した
- 産業医・衛生管理者を14日以内に選任した
- 業種に合う衛生管理者資格を確認した
- 必要な人数と専属・専任要件を確認した
- 医師免許証・産業医資格証明・衛生管理者免許証等の写しを準備した
- 対象事業場を管轄する労働基準監督署を確認した
- e-Govの申請環境を準備した
- 入力内容と添付書類の氏名・番号・日付を照合した
- 申請後の到達通知と電子公文書の保存担当者を決めた
- 衛生委員会や職場巡視など、選任後の運用計画を作成した
公式情報・様式
- 厚生労働省「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告」
- 厚生労働省「いつまでに選任し、どこに報告するか」
- 東京労働局「安全管理者・衛生管理者・産業医等の選任報告」
- e-Gov電子申請
- 厚生労働省「2026年8月1日施行・産業医の辞任時等の報告」
本記事は2026年8月時点の公表情報に基づく一般的な解説です。個別の事業場区分、業種、資格要件、提出方法については、最新の法令・様式と所轄労働基準監督署の案内をご確認ください。
50人到達前から産業医選任を準備しましょう
産業医・衛生管理者の選任報告は、書類を提出するだけの作業ではありません。選任後に、衛生委員会、職場巡視、健康診断後の就業判定、面談対応を継続できる体制をつくることが重要です。
なごみ産業医事務所では、産業医候補の選定、契約内容の整理、選任後の衛生委員会運営、職場巡視、健康診断後の対応まで支援しています。


