この記事のポイント
- ストレスチェックは実施準備・受検・面接指導・職場改善まで設計する
- 個人結果と集団分析では取扱いルールが異なる
- 担当者・産業医・外部機関の役割を事前に決める
実務上の注意:ストレスチェックの個人結果は、本人の同意なく事業者へ提供できません。人事評価への利用を避け、取扱者を限定します。
ストレスチェックは、従業員のメンタルヘルス不調を未然に防ぎ、職場環境の改善につなげる制度です。2025年の法改正により、これまで努力義務だった50人未満の事業場にも、2028年4月1日から実施が義務づけられます。
まず押さえたい3つのポイント
- 現在、常時50人以上の労働者を使用する事業場は年1回の実施が必要です。
- 50人未満の事業場も2028年4月1日から義務化されます。早めの体制整備が重要です。
- 個人結果は本人に直接通知され、本人の同意なく事業者が取得することはできません。
ストレスチェック制度の目的
制度の目的は、従業員自身にストレスへの気づきを促すことと、集団分析を通じて職場のストレス要因を改善することです。病気の診断や、人事評価のために行うものではありません。
対象となる事業場と従業員
2028年3月31日までは、常時50人以上の労働者を使用する事業場に実施義務があります。50人未満の事業場はそれまで努力義務ですが、2028年4月1日から実施義務の対象になります。
対象者は、原則として契約期間が1年以上(または1年以上使用される見込み)で、週の所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上の方です。正社員だけでなく、条件を満たすパート・アルバイトも含まれます。
実施の流れ
1.実施体制を決める
実施者となる医師・保健師等と、実施事務従事者を選定します。衛生委員会では、実施時期、高ストレス者の選定方法、面接指導の申出方法、結果の保存方法などを審議し、社内規程として周知します。
2.調査票を配布し、本人へ結果を通知する
厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」などを用いて実施します。受検は従業員本人の意思に基づき、結果は実施者から本人へ直接通知します。
3.高ストレス者の面接指導につなげる
高ストレスと判定され、本人から申出があった場合、事業者は医師による面接指導を実施します。医師の意見を踏まえ、必要に応じて労働時間の短縮、配置転換などの就業上の措置を検討します。
4.集団分析を職場改善に生かす
部署単位などで結果を集計し、仕事量、裁量、上司・同僚の支援といった職場の傾向を確認します。個人が特定されないよう配慮しながら、業務分担や相談体制の改善につなげます。
企業が準備するチェックリスト
- 実施者・実施事務従事者を決める
- 衛生委員会で実施方法を審議する
- 個人情報の取扱いと保存方法を定める
- 高ストレス者が安心して申し出られる窓口を整える
- 50人以上の事業場は実施結果を労働基準監督署へ報告する
2028年の義務化に向けて
小規模事業場では、実施者の確保や個人情報管理の方法を早めに決めておくことが重要です。厚生労働省は小規模事業場向けの実施マニュアルと支援情報を公開しています。
厚生労働省「労働者数50人未満の事業場のストレスチェック制度」
実施体制の役割分担
事業者:方針の表明、予算確保、実施後の就業上の措置、職場改善を担当します。個人結果を自由に閲覧できる立場ではありません。
実施者:医師、保健師などが調査票の選定、評価基準、高ストレス者の選定、本人への結果通知を担います。
実施事務従事者:案内、名簿管理、結果通知の補助などを行います。解雇・昇進・異動に直接の権限を持つ方は、個人結果を扱う事務には従事できません。
人事・労務担当者:対象者の確認、日程調整、面接指導の申出窓口、就業上の措置の実行を担当します。実施者との情報の境界をあらかじめ決めておくことが重要です。
年間スケジュールの例
- 実施3〜4か月前:衛生委員会で方針、対象者、実施者、委託先、判定基準を審議
- 実施1〜2か月前:社内規程を周知し、対象者名簿と連絡方法を確認
- 実施期間:受検案内、未受検者への適切な再案内、問い合わせ対応
- 結果通知後:高ストレス者の面接申出を受け付け、速やかに日程調整
- 実施後:労働基準監督署への報告、集団分析、職場改善計画の作成
- 次年度前:受検率だけでなく、申出のしやすさや改善施策の実行状況を振り返る
プライバシー保護で起こりやすい失敗
共有フォルダーに個人結果を保存する:閲覧者を実施者と必要な事務従事者に限定し、アクセス記録と保存期間を定めます。
上司が受検状況や結果を細かく確認する:受検勧奨はできますが、受検しないことや面接を申し出たことを理由に不利益な取扱いをしてはいけません。
少人数部署の集団分析をそのまま共有する:個人が推測されない集計単位にします。少人数の場合は、実施者と相談して集計方法や共有範囲を調整します。
よくある質問
従業員は必ず受検しなければなりませんか?
事業者には実施義務がありますが、従業員の受検は義務ではありません。制度の目的、個人情報の取扱い、不利益取扱いがないことを丁寧に説明し、安心して受検できる環境を整えます。
高ストレス者は全員、面接指導を受けますか?
面接指導は本人の申出に基づいて実施します。申出がなくても、本人が相談を希望する場合に利用できる社内外の相談窓口を案内しておくと安心です。
集団分析をすれば制度運用は完了ですか?
分析は出発点です。優先課題を1〜2項目に絞り、担当者、期限、評価方法を決めて改善を実行します。翌年の結果と比較することで、施策の効果を確認できます。
従業員への案内文に入れたい内容
受検率を高めるには、単に「受けてください」と伝えるのではなく、制度の目的と情報管理を具体的に説明することが大切です。案内文には次の内容を含めます。
- ストレスチェックは病気の診断や人事評価のためではないこと
- 個人結果は本人へ直接通知されること
- 本人の同意なく会社へ個人結果が提供されないこと
- 受検しないことや面接を申し出ることで不利益を受けないこと
- 高ストレス者の面接指導と、別途利用できる相談窓口
- 回答期限、所要時間、問い合わせ先
社内周知文の例
当社では、皆さまのセルフケアと職場環境の改善を目的としてストレスチェックを実施します。回答内容と個人結果は、実施者および必要な実施事務従事者が厳格に管理し、本人の同意なく会社へ提供されません。受検の有無や面接指導の申出を理由とする不利益な取扱いはありません。安心してご利用ください。
高ストレス者への対応を止めないための流れ
高ストレス者への対応は、結果通知後の案内だけでは申出につながりにくいことがあります。申出の心理的なハードルを下げる設計が必要です。
- 本人への結果通知:判定結果とセルフケア情報、面接指導の案内を同時に送ります。
- 申出窓口:直属の上司を介さず、専用フォームや実施事務従事者へ直接申し出られるようにします。
- 日程調整:業務時間内で受けられる候補日を複数用意します。
- 医師面接:勤務状況、心理的負担、心身の状態、周囲の支援状況を確認します。
- 医師の意見:就業制限や業務調整が必要な場合は、本人のプライバシーに配慮した範囲で事業者へ伝えます。
- 事後確認:措置を実施して終わりにせず、一定期間後に状況を確認します。
集団分析から職場改善へつなげる具体例
仕事量の負担が高い部署:繁忙期の業務を棚卸しし、締切の分散、応援要員、会議削減、優先順位の明確化を行います。
仕事の裁量が低い部署:進め方を本人が選べる範囲を増やし、役割と判断権限を明確にします。小さな改善でも、納得感が高まりやすくなります。
上司の支援が低い部署:管理職研修だけで終わらせず、1on1の頻度、相談時の対応、業務配分の見直しなど、行動として確認できる項目を決めます。
同僚の支援が低い部署:属人化した業務の共有、ペア作業、引継ぎルール、定例の情報共有時間を整えます。
外部委託先を選ぶときの比較ポイント
- 実施者を誰が担うのか、産業医との連携が可能か
- Web・紙の両方に対応できるか
- 個人情報の保管場所、暗号化、アクセス権限、保存期間
- 高ストレス者判定の方法を事前に説明してもらえるか
- 面接指導の日程調整まで支援するか
- 集団分析の単位やレポートが自社の組織に合うか
- 実施後の職場改善支援が含まれるか
- 退職者・休職者・異動者の名簿更新に対応できるか
50人未満の事業場が2028年までに進めるロードマップ
2026年度:対象者数と実施方法を確認し、実施者候補、委託先、社内担当者を決めます。個人情報を扱う環境も点検します。
2027年度:可能であれば試行実施し、案内方法、問い合わせ、結果通知、面接申出の流れを検証します。従業員の意見も聞き、規程と手順を修正します。
2028年4月まで:本実施の年間日程、契約、対象者名簿、周知文、相談窓口を確定します。初年度は特に、誰が何を担当するかを一枚の運用表にまとめると混乱を防げます。
追加のよくある質問
在宅勤務者も対象になりますか?
雇用形態や勤務場所だけで除外されるものではありません。対象要件を満たす在宅勤務者にも、受検機会と面接指導を受けられる体制を用意します。オンライン実施の場合は、本人確認と結果閲覧時のプライバシーにも配慮します。
面接指導の内容を上司へ共有できますか?
面接で得た健康情報をそのまま共有するのではなく、就業上必要な措置に関する医師の意見を、必要最小限の範囲で扱います。共有範囲は事前に決め、本人にも説明します。
受検率は何%なら十分ですか?
法令上、一律の合格ラインがあるわけではありません。受検率の数字だけでなく、未受検の理由、面接申出のしやすさ、職場改善の実行状況まで確認することが大切です。
無料ダウンロード:2028年対応準備チェックリスト
2028年4月1日から、労働者数50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務化されます。「誰が何を担当するか」「どこまで準備できたか」を確認できるよう、実施体制、個人情報、面接指導、集団分析、職場改善までを一枚にまとめました。
50人未満事業場向け ストレスチェック2028年対応準備チェックリスト(CSV)をダウンロード
- 初めてストレスチェックを導入する企業
- 実施者・委託先・社内担当者の役割を整理したい企業
- 個人情報管理や高ストレス者面接の流れを確認したい企業
※本資料は一般的な情報提供を目的としています。個別の事業場の体制や最新の法令・通達については、産業医、社会保険労務士、労働基準監督署等へご確認ください。
産業医に相談するとスムーズです
産業医は、実施計画の作成、高ストレス者への面接指導、集団分析後の職場改善まで支援できます。なごみ産業医事務所では、初めて導入する企業と、現在の運用を見直したい企業のどちらにも対応しています。
2026年改正:集団分析は個人を特定できない方法で
2026年6月30日に労働安全衛生規則が改正され、2027年4月1日から、集団ごとの分析は特定の労働者を識別できない方法で行うことが明確になります。少人数部署は他部署と統合するなど、結果から個人が推測されない集計単位を実施者と決めてください。
産業保健の仕組みづくりを支援します
なごみ産業医事務所では、法令対応だけでなく、企業の状況に合わせた実務運用まで一緒に整えます。


