執筆・監修:白澤一弘(日本医師会認定産業医)
最終確認日:2026年8月1日
結論
会社が産業医面談を一律に強制できるわけではありません。高ストレス者や一般の長時間労働者に対する法定の面接指導は、本人の申出を前提とする制度です。一方、復職判定や健康上の懸念を理由に会社が指示する面談は、就業規則、業務上の必要性、指示内容の合理性・相当性を踏まえた個別判断になります。拒否された場合も放置せず、目的と情報共有範囲を説明し、業務調整など面談以外の安全配慮を検討して経過を記録します。
出典:厚生労働省「長時間労働者、高ストレス者の面接指導について」
面談の種類で扱いが変わる
| 場面 | 制度上の位置づけ | 会社の実務対応 |
|---|---|---|
| 定期健康診断 | 労働者にも原則として受診義務がある | 他の医師による同等の健診結果提出も確認する |
| 高ストレス者の面接指導 | 本人の申出が前提 | 強制ではなく、安心して申し出られる説明と窓口を整える |
| 一般の長時間労働者の面接指導 | 原則として本人の申出が前提 | 勧奨に加え、労働時間・業務量を見直す |
| 研究開発業務従事者、高度プロフェッショナル制度対象者 | 一般の長時間労働者と異なる基準がある | 対象区分と労働時間基準を個別確認する |
| 復職判定、健康上の懸念を理由とする会社指示の面談 | 就業規則と個別事情による | 必要性、合理性、相当性を確認し、必要に応じ専門家へ相談する |
定期健康診断と産業医面談は別の制度です。「健康に関する面談だからすべて義務」と扱わないことが重要です。
会社が最初に確認する5項目
- 何のための面談か
高ストレス、長時間労働、復職判断、就業上の懸念など、目的を特定します。
- 法令上の申出要件があるか
本人の申出を前提とする制度を、業務命令として案内していないか確認します。
- 就業規則に根拠があるか
復職判定や受診・面談指示に関する規定と、従業員への周知状況を確認します。
- 面談が必要な客観的事情があるか
勤怠、業務上の事故リスク、体調を懸念する具体的な言動など、判断根拠を整理します。
- 面談以外の方法で健康と安全を確保できないか
業務量の削減、残業停止、勤務場所の変更、主治医の意見書など代替策を検討します。
従業員が拒否する主な理由
- 面談内容が上司や人事へそのまま伝わると思っている
- 評価、異動、退職勧奨に使われるのではないかと不安
- 面談の目的と、面談後に起きることが分からない
- 直属上司からの案内が命令や圧力に感じられる
- 面談場所や時間から、周囲に事情を知られることが不安
- 過去の面談で、説明なく情報を共有された経験がある
拒否の背景は「産業医と話したくない」ことより、「話した内容がどう使われるか分からない」ことにある場合が少なくありません。
拒否された後の対応手順
1.拒否理由を確認する
説得から始めず、「面談のどの点に不安がありますか」と確認します。病状の詳細を聞き出すのではなく、情報共有、場所、時間、担当医、オンライン利用など、調整できる条件を探します。
2.目的と情報共有範囲を説明する
産業医面談は、人事評価や処分のためではなく、健康確保と就業上の配慮を検討するために行うことを説明します。会社へ伝える内容は、原則として病名や会話の全文ではなく、残業制限、業務量、配置、配慮期間など就業上必要な事項に整理します。
3.選択肢を提示する
- 対面またはオンライン
- 複数の候補日時
- 周囲から分かりにくい面談場所
- 直属上司を介さない申出・日程調整
- 必要に応じ、本人の同意を得た主治医との情報連携
4.面談以外の安全配慮を検討する
本人が面談を申し出ない場合も、長時間労働や明らかな業務負荷を把握しているなら、労働時間の削減、業務配分の変更、危険作業からの一時的な変更などを検討します。「本人が拒否したので会社は何もしない」としないでください。
5.案内と対応経過を記録する
面談を案内した日時、目的、説明した情報共有範囲、本人の返答、提示した代替案、実施した業務調整、次回確認日を記録します。病状への推測や評価的な表現は避け、事実を記録します。
従業員への案内文例
今回の面談は、人事評価や処分を目的とするものではなく、現在の勤務を安全に継続するために必要な配慮を産業医へ相談するものです。面談で話した内容がそのまま上司へ共有されることはありません。会社へ伝える必要がある場合も、業務量、勤務時間、配慮期間など就業上必要な範囲に整理します。対面・オンラインと複数の日程から選べます。不安な点がある場合は、日程を決める前に人事窓口へお知らせください。
拒否記録の例
| 項目 | 記録内容 |
|---|---|
| 面談の目的 | 長時間労働後の健康確認、復職判断など |
| 案内日時・方法 | 2026年○月○日、人事担当者から書面と口頭で案内 |
| 説明内容 | 目的、情報共有範囲、面談後の流れ |
| 本人の返答 | 本人の表現をできるだけそのまま記載 |
| 提示した代替案 | オンライン、別日、主治医意見書など |
| 会社が行った措置 | 残業停止、業務量調整、次回確認日 |
避けたい対応
- 面談の種類を確認せず「法律で義務だから」と説明する
- 拒否したことを直ちに懲戒や人事評価へ結びつける
- 直属上司が繰り返し面談を迫る
- 面談内容がすべて会社へ伝わるような説明をする
- 本人の拒否を理由に、把握している長時間労働や危険を放置する
- 診断名や私生活上の事情を職場へ広く共有する
よくある質問
高ストレス者は必ず面接を受けなければなりませんか?
面接指導は本人の申出を受けて実施する仕組みです。会社は、申出による不利益な取扱いがないこと、情報の扱い、申出方法を説明し、利用しやすい環境を整えます。
産業医面談を拒否したら、そのまま勤務させるべきですか?
一律には判断できません。会社が把握している勤務状況、業務の危険性、本人の状態、主治医の情報などをもとに、面談以外の安全配慮や就業上の措置を検討します。
復職判定面談を拒否された場合は?
就業規則、休職・復職規程、面談の必要性と合理性を確認し、目的と情報管理を再説明します。強制や処分の可否は個別事情で変わるため、必要に応じて社会保険労務士や弁護士へ確認してください。
参考資料
面談を受けてもらいやすい運用を支援します
なごみ産業医事務所では、面談案内文、情報共有ルール、長時間労働者面談、休職・復職面談の運用を企業の状況に合わせて整えます。
※本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法的助言ではありません。


