嘱託産業医の費用相場は、月額3万〜10万円前後です。ずいぶん幅があると感じるかもしれません。実は、この幅にこそ理由があります。同じ「月1回の訪問」でも、契約に含まれる業務の範囲が会社ごとに大きく違うからです。
この記事では、初めて産業医を選任する中小企業の人事・労務担当者の方に向けて、費用相場の目安、金額が変わる4つの要因、契約経路ごとの特徴を整理します。月額の数字だけで比較して後悔しないための考え方が、この1本でつかめるはずです。
産業医の費用相場|嘱託(非常勤)は月3万〜10万円
従業員50人前後の事業場で選任するのは、月1回や隔月の定期訪問で関わる「嘱託産業医」が一般的です。常勤の「専属産業医」が求められるのは、より大規模な事業場の場合です。まずは嘱託の相場を押さえておけば、比較の軸として十分でしょう。
公開されている情報を整理すると、嘱託産業医の費用はおおむね月額3万〜10万円の範囲に収まります。価格帯としては「4万〜5万円」がもっとも多かったという調査もあります。また、各地の医師会が嘱託産業医報酬の目安表を公開しており、地域の水準を知る手がかりになるはずです。紹介会社の公表プランには、月3万円台からの例もあります。
| 契約形態 | 費用の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 嘱託(定期訪問) | 月額3万〜10万円 | 訪問頻度・業務範囲で変動 |
| スポット(単発対応) | 個別見積りが一般的 | 面談1回・訪問1回など単位で依頼 |
スポット対応は、休職者との面談だけを単発で依頼したい、といった場面で使われます。ただし50人以上の事業場では選任そのものが義務のため、スポットだけで済ませることはできません。
※金額は公開情報に基づく目安です。個別の条件により変わります。
費用が変わる4つの要因
同じ嘱託契約でも、次の4つで金額は変わります。
- 従業員数 — 対象人数が増えるほど、面談や健康診断結果の確認など、医師が関わる量が増えます。同じ「月1回訪問」でも、50人規模と200人規模では中身の密度がまったくの別物です。
- 訪問頻度と滞在時間 — 毎月1回か、隔月か。1回1時間か、半日か。頻度と時間は月額に最も直結する要素です。
- 業務範囲 — 衛生委員会への出席、ストレスチェックへの関与、休職・復職面談などをどこまで含むか。ここが契約ごとの差の中心になります。
- 地域 — 都市部と地方では水準が異なります。医師会の目安表を見ると、地域差の感覚がつかめます。
見落とされがちなのは3つ目の業務範囲です。月額だけを見ると安い契約が、面談のたびに追加費用が積み上がる設計になっていることもあります。逆に、一見高めの月額に必要な対応がひととおり含まれていることもあります。安いはずの契約が高くつき、高いはずの契約が割安になる。この逆転は、費用比較の場面で実際に起こり得ます。
比較するときは、金額ではなく「月額に何が含まれているか」の条件をそろえてください。見積りを取る際に「休職者の面談は月額に含まれますか」と一言確認するだけでも、後々の行き違いを減らせます。
契約経路は主に3つ|医師会・紹介会社・直接契約
産業医の探し方には、主に次の経路があります。それぞれに利点があり、どれが正解ということはありません。
| 経路 | 特徴 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 地区医師会 | 無料で紹介を受けられる。契約条件の交渉は自社で行う | 地元で探したい、条件交渉を自社でできる |
| 産業医紹介会社 | 候補の選定から契約条件の調整まで代行してくれる | 探す手間をかけられない、初めてで進め方が分からない |
| 事務所・医師との直接契約 | 業務範囲や訪問形態を柔軟に設計しやすい | 自社の実情に合わせた関わり方をしてほしい |
経路は入口の違いにすぎません。どの経路を選んでも、最終的に自社へ来るのは一人の医師です。契約前に顔合わせの機会をつくり、自社の課題(メンタルヘルス対応が多いのか、現場の安全衛生が中心なのか)に合う相手かどうかを確かめることをおすすめします。
なお、従業員50人未満の事業場は、制度上、地域産業保健センターの無料相談を利用できるとされています。ただし実際の対応状況は地域によって差があるため、利用を考える場合は、最寄りのセンターに事前に確認することをおすすめします。
費用以外に見るべき3つのポイント
相場を知ったうえで、選ぶときには金額以外の要素も確認してください。
- 判断に迷う場面で相談できるか — 休職させるべきか、復職を認めてよいか。人事だけで判断できない場面こそ、産業医の出番です。訪問時間の中でどこまで相談に乗ってもらえるのか、契約前に確認しておきたいところです。
- レスポンス — 質問への返答が、誰から、どのくらいの早さで返ってくるか。急な体調不良者への対応が必要なとき、この差は大きく効いてきます。
- 50人到達に伴う義務全体への対応 — 産業医の選任は、従業員50人で発生する義務の1つにすぎません。ストレスチェックや衛生委員会など、全体像は「従業員50人で発生する5つの義務と期限|産業医選任・届出の準備」で解説しています。
よくある質問
Q. 相場より安ければお得ですか?
A. 月額に含まれる業務範囲が違えば、単純な比較はできません。必要な対応が追加費用になっていないか、契約前の確認をおすすめします。
Q. 従業員50人未満でも産業医は必要ですか?
A. 選任義務が生じるのは常時50人以上の事業場です。50人未満でも、健康診断後の対応など医師の関与が望ましい場面はあります。50人が視野に入ってきた段階で準備を始めておくと、選任がスムーズに進みます。
Q. 費用を抑える方法はありますか?
A. 訪問頻度や業務範囲を、自社の実態に合わせて設計することです。使わないサービスまで含んだ契約より、必要な対応に絞った契約のほうが無駄はありません。迷ったら、いまの課題を書き出してから見積りを取ると判断しやすくなります。
まとめ|「いくら払うか」より「何をしてもらうか」
産業医の費用相場は月額3万〜10万円。ただ、比較を突き詰めていくと、最後は金額の問題ではなくなります。「いくら払うか」ではなく「何をしてもらうか」。ここが決まれば、適正な金額はおのずと見えてくるものです。
なごみ産業医事務所では、従業員数・業種・希望する関わり方をうかがったうえで、御社の場合の概算を無料相談でご案内しています。まずは自社の条件でいくらになるのか、確かめるところから始めてみてください。
参考
- 嘱託産業医報酬の目安表: 愛知県医師会「嘱託産業医報酬の目安」(PDF)
- 費用相場および価格帯の分布(「4万〜5万円」が32.9%): 産業保健情報メディア「産業保健NAVI」の産業医報酬に関するコラム


